お味噌汁のお椀やお節のお重など、日常でもハレの日にも活躍する“漆器”。
今回漆器についてあらためて調べていくと、その機能性の高さと多様性に驚きました。
日本各地の漆器紹介とともに、素晴らしき漆器の世界をお楽しみください。
そもそも漆器とはどんな器のこと?

漆器はウルシの木の樹液である“漆”を塗った器などのことを指します。
漆の持つ優れた性質から天然樹脂として塗料や接着剤などに古くから使われてきました。
漆の採取は6月~10月頃までかけて行われ、傷をつけた木からにじみ出た樹液を採取します。漆の採取後は木は枯れてしまううえ、20年近く育てた木からわずか200gほどしか採取できない貴重なものです。
漆が持つ優れた4つの性質

耐久性
漆には強い接着力があり、一度固まれば硫酸でも溶けないほど高い耐久性を誇ります。
また、塗り重ねるほど頑丈になり、欠けても塗りなおして修復が容易なことから、焼き物の修復技法である金継ぎにも古くから使用されてきました。
耐水性
固まった漆の被膜には耐水性があるため、汁物をよそう椀などに最適なコーティング剤として使われてきました。
また、お手入れも簡単でスポンジで優しく洗って布巾で水気を拭えばOKです。
断熱性
漆には断熱効果があり、漆塗りの器には料理の温度を保つ効果があるうえ、熱い汁ものなどを入れても器を持つ手に伝わりづらいなどのメリットがあります。
抗菌作用
京都漆器工芸協同組合が行なった調査で、漆には抗菌作用があることも実証されました。
漆コーティングしたプラスチックに大腸菌、黄色ブドウ球菌、サルモネラ、腸炎ビブリオを放置したところ、24時間後にはゼロになったという結果が得られたそうです。
漆塗りの曲げわっぱなら、食中毒のリスクも抑えられてお弁当箱には最適ですね。
日本各地の漆器の種類と特徴
輪島塗
石川県輪島市で作られる輪島塗(わじまぬり)は、金粉や銀粉を使用した蒔絵の装飾やなど、その美しさから特に人気の高い漆器です。また、輪島でしか採れない輪島地の粉を下地に使用することで強度も高く、実用品としても優れています。
輪島塗の起源には諸説ありますが、江戸時代の中期には現在の工程とほぼ同様だったと言われています。
輪島塗は100を超える工程を経て制作され、長く愛用できる品として今も愛されています。
山中漆器
山中漆器(やまなかしっき)は石川県加賀市の山中温泉地区で作られる漆器で、山中塗(やまなかぬり)とも呼ばれます。
山中は挽物木地(ろくろを使って木を削りだす加工)で全国一の生産量を誇り、山中漆器も木目を生かした風合いが魅力です。
また、丸太を輪切りにし年輪に対して平行に器を削り出す“縦木取り(たてきどり)”で作られるのも特徴で、割れづらく歪みにくいため、薄く繊細な仕上がりの器も多く存在します。
川連漆器
秋田県の湯沢市で作られる川連漆器(かわつらしっき)は、国産の木地を煙で燻すことでゆっくり乾燥させ、歪みを抑え、防腐や防虫効果も付与されます。
また、上塗りの厚さを活かし、研いだり磨いたりせずに仕上げることで、ふっくらとした質感と平滑で光沢のある漆器になります。
どこか女性的な雰囲気の漂うあたたかみが川連漆器の魅力でしょう。
会津漆器
福島県の会津で作られる会津漆器(あいづしっき)は、1400年代に時の大名が漆器の技術を持ち込んだことで、その歴史が始まりました。
会津漆器の魅力は、飾らない日常生活に根付いた器であること。
芸術品ではなく、職人が使い手のニーズに沿って、手頃で良いものを多くの人に提供することで、会津漆器は全国に広まっていったのです。
大量生産のために、制作の工程とそれに関わる人員を細かく分け、完全分業制にしたのも当時の業界では画期的なことでした。
越前漆器
福井県鯖江市河和田地区で生産される越前漆器(えちぜんしっき)は、日本最古の漆器とも言われその歴史は6世紀頃にまで遡るそうです。その長い歴史の中で、漆器作りの技術は連綿と受け継がれ育まれてきました。
越前漆器は漆を何層にも塗り重ねることで、艶と上品な光沢をおびます。
また、良質な木材が採れることから軽く丈夫なのも特徴です。
木曽漆器
旧木曽郡楢川村である長野県塩尻市とその周辺で作られる木曽漆器(きそしっき)。
良質な木材や漆などを入手可能な土地であり、漆塗りの作業に適した気候が木曽漆器の歴史を育みました。
下地を付けずに生漆を繰り返し擦りこみ染み込ませて、木地の美しい木目を生かす「木曽春慶(きそしゅんけい)」や、独特な模様を生み出す「木曽堆朱(きそついしゅ)」、色漆を数種類使用して塗り分ける「塗分呂色塗(ぬりわけろいろぬり)」などの技法が特徴的です。
小田原漆器
神奈川県小田原市で作られる小田原漆器(おだわらしっき)は、木目の美しさを活かした艶やかな仕上がりが特徴的な漆器です。
「木地呂塗り(きじろぬり)」という手法を用い、下塗り、中塗り、上塗りの工程を重ねることによって透明度の高い美しい仕上がりが生まれます。
素朴な雰囲気と丈夫さを併せ持つ小田原漆器は、日常使いにぴったりな漆器といえるでしょう。
紀州漆器
和歌山県海南市の黒江地区を中心に作られる紀州漆器(きしゅうしっき)は、黒江塗り(くろえぬり)とも呼ばれます。
その特徴は、朱塗りの表面に下地の黒が浮き出た文様で、これは和歌山県の根来塗(ねごろぬり)にルーツがあるそうです。
紀州漆器は江戸時代から庶民の日用品として親しまれ、シンプルで丈夫な日用品として今も愛されています。
今回は日本各地の漆器についてご紹介しました。
私は記事を書いていて漆器の大きい椀が欲しくなりましたが、皆さんも気になる漆器は見つかりましたでしょうか。
日本が誇るプロダクトである漆器を、ぜひ生活に取り入れてみてくださいね。